
アサロトス・オイコス バチカン美術館 バチカン市国
食欲の秋ですね。
ついさっき食事を摂ったばかりなのになんだかまだ食べ足りない気分。デザートや間食が増えてしまう今日この頃です。
前回の記事でモザイクが食材にしか見えなかったのも、そのせいだったのかもしれません。
ということで、こんなモザイクを用意してみました。
こちら有名ですよね。アサロトス・オイコス、ギリシア語で「食い散らかした床」という意味です。
古代ローマ人は寝転がって食べ、食べカスは床にポイポイ捨てていました。当然床の上はゴミだらけです。綺麗な床にばらまいちゃうと目立つので最初からカムフラージュ用にこんな床にしちゃった、ということらしいです。一般的な説明では。
でもこれって多分演出じゃないかな、と私は思います。
昔、スペインに旅行に行った時には美味しいバルを探すなら床が汚いところがいい、なんてアドバイスがありました。
人間の脳みそなんて都合のいいもので、成功体験と連動すると汚い床がありがたく見えることあるんですよ。
だからこの床を見た古代ローマ人は、ご馳走をたっぷり食べたシアワセ回路に連結したんじゃないのかなぁと思うのです。


ちなみにこのお行儀の悪そうなこの床、古代ローマ人に成り代わって言い訳しておきます。
当時は大きな食卓はありませんでした。また銘々に取り分ける皿もありませんでした。小さな卓上の真ん中に盛られた料理を手で取って食べるのです。しかも寝転がりながら。食べカスを置いておくお皿もなければテーブルに余分なスペースもありません。そんなスタイルで食べているんですから、そりゃあ仕方がないです。
しかし見れば見るほど、美味しそうなものいろいろと食べてますよね。
魚や鳥、貝類にウニ、エビもしくはカニ、果物もサクランボやぶどうやイチジクにナツメヤシ。
ネズミがおこぼれにあやかろうとしているのはクルミです。
バチカン美術館には食べる前の食材のモザイクもあります。


うーん、お腹が空いてきました。
私には目の毒だったようです。

こちらのモザイクはバチカン美術館の最後の方にあります。
美味しいものは最後に!ってことですかね。

アクイレイア大聖堂のモザイク群 アクイレイア イタリア
今回も引き続きアクイレイアです。
前回の記事で教会の中のモザイク2枚目の写真、幾何学模様だけと思っていたら隅っこに大事な絵柄が写り込んでいました。
鶏と亀が向かい合っている姿です。

曰く鶏はキリスト教に目覚めた知恵のあるものの象徴で、亀はまだ気付かぬ無知なものの象徴なのだとか。
亀さんがおバカ扱いなんですね。ニワトリよりもおバカ。
でも亀って中国では知恵と長生きの象徴だし、日本も鶴と共に長寿の象徴、縁起物であります。古代インドの宇宙観では世界を支えているのが大亀でした。もしもしカメよカメさんよー のウサギとカメの元ネタはイソップ童話、古代ギリシャだってノロマではあるけど堅実な努力家であるイメージです。
なんだかとっても意外な気持ちがしました。
ともかくこのモチーフはこの教会でも代表的なものみたいで、お土産屋でもよく見かけました。
そんなことを頭の隅っこに残して、今回はこの教会の別の部屋にあるモザイク群をご紹介します。
教会の向かって左側にはクリプタ(地下聖堂)があります。
中に入って最初に目につくのは、素朴な素朴なモザイクたち。そうここはさらに古い時代に作られたモザイク群があるのです。1世紀ごろのものという記述をどこかで見た気がします。

そしてでっかい壁の周りには綺麗で新し目のモザイクがあります。こちらは教会の床と同じ時期に作られました。
でかい壁は後の時代に建てられた鐘楼の基壇部分。初期の信者たちが一生懸命考えて作ったであろうモザイクは、もうどうでもよかったんでしょうか? それとも周りにあった古代ローマ時代のモザイクと同じと勘違いして潰されちゃったのでしょうか?
こちらのコーナーにあるモザイクは一言で言えば美味しそう! 食材の宝庫に見えます。

ロブスターとシビレエイ(ヤマザキマリさんのツイッターでひところ盛り上がってました)

エスカルゴ

きのこ

これはキジでしょうか? 巣を作っているところだそうです

タコのようなイカのような

ヤギの隣にあるのはモッツァレラだとか

と例のモチーフ発見


うーん、この流れで見たら食材にしか見えませぬ。
都合のいい絵柄だけ引っ張り出して、ストーリーを盛っているのでは? ひねくれた私はやっぱりそう思うのでした。
あとがき
今回の記事は前回から比べてすっかりとトーンダウンしてしまいました。
というのも、最初の構想時にはこちらのクリプタのモザイクは全てローマ時代の邸宅のものと思い込んでいたためなんです。つまりニワトリとカメのモザイクも元々ローマ時代のモザイクを宗教用に転用したと勘違いしていたわけで、、、
記事を書くにあたり改めて調べ直したところ、鐘楼周りはAD314年とあり、あえなく撃沈。
苦しい仕上がりになってしまいました。

アクイレイア大聖堂のモザイク群 アクイレイア イタリア
今回取り上げるのはみんな大好きアクイレイアの大聖堂です。
床モザイクの規模もさることながら、そこに用いられているモチーフの豊かさといい可愛らしさといい、見ていてあきませんよね。見るだけではなく作ってみたくなる小品の宝庫でもあります。
なのでついついモザイクのカタログ的感覚で見ちゃうのですが、その成り立ちも興味深くなかなか面白いです。
私はモザイクに興味を持って初めてアクイレイアという町の名前を知りました。なのでイタリアの隅っこの小さな町だと思っていたのですが、古代ローマ時代は大事な大事な拠点都市だったようです。隅っこだから防衛の拠点として。
そんな町に建てられたのがアクイレイア大聖堂です。
なんと313年にコンスタンティヌス帝がミラノ勅令を出してキリスト教を承認するやいなや、司教テオドーロが建てた最初の教会。軍事の拠点だったまちはキリスト教布教の拠点にもなったのです。


テオドーロの名前が入ったモザイク
キリスト教徒にとって地下や個人の邸宅がひそやかな集会の場所だったのに、これからは堂々と大きな建物が建てられるんです。それはそれは嬉しかったでしょう。その時代のありとあらゆる装飾の手段をそこに用いたんだろうな、というのは想像に難くありません。上屋の方は建て変わってしまったのですが、床のモザイクだけは4世紀そのままの状態で残っているので、その様子をひしと肌で感じてください。
モザイクで何を描こうか?何を表現しようか?とウキウキと試行錯誤をしているようにも見え、また若干その広い床を持て余しているようにも見え、想像の翼がひろがります。
主身廊の全体的な感じ

この辺りは幾何学模様が多いですが、、、

向かって右側の側廊には動物モチーフがいっぱい

入り口方向に振り返ってみた


細かいモチーフはモザイクを巡る旅アルバム編でたっぷりとご覧になれるので、こちらでは教会の雰囲気を。(池袋のYさん、またお世話になります)
幾何学模様や植物をモチーフにした飾り、動物や鳥が随所にあります。人の顔のメダイヨンは服装から聖人ではなく一般庶民の姿と思われます。寄進者を表しているのでしょうか? そして一番教会の奥の方に海をテーマとした一枚の大きなモザイク(トップ絵)があります。
ぱっと見は古代ローマの邸宅のモザイクと大差がないように見えます。前方ど真ん中にイエス様の姿があるわけでもないし、装飾のルールがなくて自由な感じです。でもよーく見てるとちょこちょこと教会らしいモチーフも見え隠れしてます。
わかりやすいのがこちらの「よき羊飼いで表されたキリスト」。ラヴェンナ(12)にもありました。
同じテーマのものを何度も見ているうちに、これはキリストを象徴的に表した絵であることがわかりました。初期キリスト教ではまだそのお姿を描くことは禁止だったようです。偶像崇拝禁止のユダヤ教の影響でしょうか。

宗教的な内容がふんだんに盛り込まれているのが、海のシーンのモザイクです。
おそらくはこの教会の肝いりなのでしょう。
こちらのコミカルなシーンは旧約聖書のヨナ書の一部分。お魚に飲み込まれ3日3晩後に吐き出されるという、元祖ピノキオ状態の人。

吐き出されるシーンがこの手前にあります。無事に助かってドヤ顔のヨナ

こちらも宗教的モチーフなんだそうです。
漁をする天使たち。天使の網にかかった魚がキリスト教によって救われる信徒の象徴だというのだそうですが、、、

この絵柄、アレによく似てません?
↓アレ=ヴィッラ・ロマーナ・デル・カサーレの漁のシーンのモザイク
こちらには宗教的意味合いはもちろんありません。

あれ?これってもしかしたらもしかして?
初期キリスト教では、既にある古代ローマの床モザイクのモチーフを布教に使っていたとか?(モザイクに限らないでしょうが)
これ1つで結論を出すには気が早すぎるでしょうけど。
でも、このストーリーの後付け感満載な感じが拭えない中、ここの教会の話はまだまだ続くのです。。。。

ということは、この子たちはその他一般の人間たちってことですよね?